夢幻の騎士と片翼の王女
(なにやってるんだ、俺は……)



気が付けば、俺は部屋を出て幽閉の塔へ向かっていた。



「誰…あ、これはリュシアン様!」

俺に気付いて、番兵はかしこまって敬礼をした。



「遅くまで大変だな。」

「いえ、仕事ですから。」

「おまえは仕事熱心なんだな。」

「はっ!」



言い出しにくい。
まともに、ここを通してくれと言われても、それは無理だろう。



「じ…実は、アドルフの使いで来たのだ。」

俺は咄嗟にそんな嘘を吐いた。



「アドルフ殿下の?ど、どのようなことでしょう?」

「亜里沙の様子を見て来てほしいとのことだ。」

「亜里沙様の…し、しかし、ここは陛下から許可を得た者以外は通すなと言いつかっております。」

番兵の返答は予想通りのものだった。
そうすんなりと通してもらえるはずがない。
わかりきっていたことだが、なぜだかやけに反発心を感じてしまった。



「そんなことはわかっている。
だが、アドルフは亜里沙のことをとても心配しておるのだ。」

「しかし…」

「……おまえは、第一王子である私の言うことがきけないと言うのか?」

私は、低い声と鋭い視線で番兵を威嚇した。



「め、滅相もございません!
で、ですが…その……」

「心配するな。
上に上がったからといって、中に入れるものではないのだ。
ただ、一言二言話して、亜里沙の様子を確かめるだけだ。
おまえには決して迷惑はかけない。」

そう言って、俺は番兵の瞳をじっとみつめた。



「お…ちょっと催して来た。
便所に行って来よう。」



番兵は、私から目を逸らし、独り言のようにそう言い、持ち場を離れた。
奴は、入口の鍵を開けることも忘れなかった。
つまりそれは、今のうちに行けということ…



俺は小さく扉を開き、塔の中へ身体を滑り込ませ、それをまた閉じた。
扉を閉めると、ほとんど何も見えない程真っ暗だ。
壁に手を添え、足元に気を付けながら、俺は塔の螺旋階段を上って行った。
< 134 / 277 >

この作品をシェア

pagetop