夢幻の騎士と片翼の王女
「おはようございます、亜里沙様…ご気分はいかがですか?」

次の日の朝、アンナさんは平然とそんなことを私に訊ねた。



「アンナさん、酷いじゃない。
あんなことするなんて…」

「申し訳ありません。
しかし、許可を得た者以外との会話は禁じられておりますので…」

毅然とした態度に、私はそれ以上何も言えなくなる。
アンナさんは、まだ若いのに本当にしっかりしてる。
だからこそ、私の世話係をしているのかもしれないけど。



「リュシアン様は、あれからどうなさったの?」

「お戻りになられました。」

「そう……」

無駄だった。
リュシアン様になんとかしてもらおうなんて、到底無理な話だったんだ。
今日も例の授業は行われる…
考えるだけでまた悲しくなったけど、泣いたって駄々をこねたって、許してはもらえない。



「それにしても、リュシアン様の歌声は素晴らしいですね。」

「リュシアン様の…歌声?」

「お聞きになられなかったのですか?
リュシアン様が歌われた子守歌を…」

「メアリー!」

「あ……」

メアリーさんは、アンナさんに咎められ、慌てて口元を押さえた。



(じゃあ、あれは……)



昨夜、半分眠った意識の中で聴いたのは、リュシアン様の声だったんだ。
もしかしたら、私が感情的になっていたから心配して下さったのかな?



(けっこうお優しい方なのかも…)



そう思ったら、落ち込んでいた気分が少しだけましになった気がした。


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