夢幻の騎士と片翼の王女
(あ……)



角を曲がった所でリュシアンに出会った。



「これはこれは…アドルフではありませんか。
お久しぶりですね。」

「お久しぶりにございます。」

「聞きましたよ。
ジゼルがご懐妊されたとか…おめでとうございます。
まだご結婚して間もないと言うのに…さすがに御仲の宜しいことで…」



なんとなく険のある口調に思えた。
しかし、私はそんな気持ちをひた隠し、穏やかに微笑んで見せた。



「ありがとうございます。」

「ところで…今からどちらへ?」

何と答えよう…?
適当な嘘を吐くのは容易いことだが、私は何もやましいことをしているのではない。



「実は今日、アリシアが幽閉の塔より戻りまして…
昼食を一緒にということになったのです。」

「アリシア…?あぁ亜里沙のことですね。
ゼリアが連れて来た…」

「あ、そ、そうです。
亜里沙です。」

「それはおめでたいことですな。
……そうだ、私も昼食会に混ぜていただけませんか?
私も一言お祝いを言いたい。」



祝いだと?
半年の幽閉が解けたとはいえ、そんなことはリュシアンには何の関係もない事だ。
こやつ、何を考えている?



「どうかなさいましたか?
まさか、私があの女にまだこだわっていて、なにかしでかすとでもお思いか?」

「いえ、そのようなことは…」

「なら、構わないではありませんか。」

「……ええ、リュシアン様がそうしたいとおっしゃるのなら、私は何も…」



もちろん本心ではないが、そう言わざるを得なかった。
リュシアンが何を考えているのかはわからないが、仕方なく、私はリュシアンを昼食会に連れて行くことにした。
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