夢幻の騎士と片翼の王女
「泣くな!」



私の声に、ジゼルの肩が一瞬跳ね、すすり泣く声が小さくなった。



言うまいと思っていたのに、あまりにしつこいものだから、私も思わず声を荒らげてしまったのだ。



「……そんなにいやだったのか?」

「い、いえ…そうじゃありません。」

「私は……君と結ばれてこんなに幸せだというのに…」



言った直後、自分自身を嫌悪した。
よくもそんな大嘘が吐けるものだ。
しかし、少し無茶を遣りすぎたかもしれない。
いくら好きではないとはいえ、もう少しくらい優しくすべきだったのだ。
なんせ、彼女は我が国とはまるで比べ物にならない程の大国・ランジャール王国の王女なのだから。



「ジゼル…今夜の君は最高だったよ。」

私は、いまだ詐欺師をしたことはないが、こんなに嘘がうまいのなら、来世では詐欺師でもやってやろうか…



「アドルフ様…本当ですか?」

涙でぐしゃぐしゃになったジゼルの目は腫れ、鼻は赤くなって、いつも以上に醜かった。



「本当だとも…私はすっかり君の虜だ。」

「アドルフ様……」



ジゼルが私に身を寄せて来た。
むっとする熱と汗にまみれたにおいに、私は思わず咳き込みそうになるのを懸命にこらえた。



「明日も君を抱きたい。
明後日も、そのまた次の日も…」

息を止め、彼女のにおいを嗅がないように気を付けながらそう言った。



「アドルフ様…」

彼女の唇が私の唇に覆いかぶさる…



(石になってしまえ…!)

心の中でジゼルを呪いながら、私は不快な口づけに耐え忍んだ。
< 98 / 277 >

この作品をシェア

pagetop