明日の蒼の空
 空のキャンバスに絵を描く方法を、私は菓絵さんにも聞けずにいる。ひばりさんと菓絵さん以外の人に聞くという手もあるけど、どうせ聞くなら、絵を描くことが上手な人に聞いたほうがいいし、絵を描くことが上手な人から教わったほうがいい。

 今日も聞こうかどうか迷いながら、住宅街を歩いているうちに、みんなのふっちゃんの前に着いてしまった。

 お昼時はいつも空いている。今のところ、お客さんは私一人だけ。この時間、菓絵さんは、お店の奥の部屋で祖父母さんと一緒にお昼ご飯を食べている。

「こんにちは。お邪魔します」
 私は小さな声で挨拶をして、スケッチブックを背中に隠しながらお店に入った。

「蒼衣さん、こんにちは。いらっしゃい」
 お店の奥の部屋から顔を出して、私に声を掛けてくれた菓絵さんは、いつも小麦色の麦わら帽子を被っている。

 テープリボンの色は明るいオレンジ色。美しい顔の菓絵さんによく似合っていると私は思う。

「いつもお食事中にお邪魔してしまって、どうもすみません」
 私はスケッチブックを背中に隠したまま、菓絵さんに向かって頭を下げた。

「気にしないでいいのよ。ゆっくりしていってね」
 菓絵さんは今日も微笑みながら言ってくれた。本当に優しい人だと私はいつも思う。

「五円チョコをいただいていいですか?」

「いいわよ」

「どうもありがとうございます」

 私はいつも決まって、五円チョコをいただいている。私がみんなのふっちゃんに初めて立ち寄ったとき、菓絵さんが私に五円チョコを勧めてくれた。

 食べてみたら、ものすごく美味しかった。なんだか懐かしい味がした。その日から、私は五円チョコを毎日一つずついただいている。

 五円チョコも他の駄菓子もおもちゃもアイスクリームもジュースも文具類も、お店に並べられているものは全て無料。駄菓子の何種類かは、菓絵さんの祖父母さんの手作りらしい。
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