明日の蒼の空
「一つだけでいいの?」
 菓絵さんがお店の奥の部屋から出てきて、私に言ってくれた。

「はい。一つでいいです」

「遠慮しなくていいのよ。もっといっぱい食べて」

「は、はい」

 菓絵さんと私のこのやり取りは、もうかれこれ、一週間くらい続いている。

 私は昔から小心者。無料とはいえ、二つもいただくのはちょっと気が引けてしまう。

 本音を言えば、もっといっぱい食べたい。今日こそは勇気を出して、二ついただこうか。やっぱり、一つだけにしておこうか。私は五円チョコのパッケージを見つめながら考える。

「それでは、もう一つ、いただきます」
 今日は二ついただいた。喜んでくれている菓絵さんの笑顔を見て、勇気を出して良かったと思った。一つは今食べて、もう一つはあとで食べようと思う。

「食器を片付けてくるから、ちょっと待っててね」

 菓絵さんは靴を脱いでお店の奥の部屋に戻っていき、私はお店の軒先にある樹のベンチに座って、五円チョコを口に放り込んだ。

 甘くてまろやかで優しい味がする五円チョコは何個食べても美味しい。

 明日は三ついただこうか。私は五円チョコをゆっくりと味わいながら考える。
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