明日の蒼の空
 今日は……電話で誰かと話している。



 そこをどうにかお願いできませんか。

 あ、はい。それはわかりますけど……

 私は子供のために働かなければならないんです。

 生活が苦しいんです。

 私はシングルマザーになりたくてなったわけじゃないんです。

 夫は川で溺れて亡くなってしまったんですよ。さっきも言ったじゃないですか。

 定員がいっぱいと言われても困るんですよ。

 どうにかしてくださいよ。

 一人くらい増えたっていいじゃないですか。

 え、そういう問題じゃない? 

 何のための保育園なんですか! 

 誰のための保育園なんですか! 

 子供のための保育園でしょ! 

 働く母親のための保育園でしょ! 

 他の保育園にはとっくに電話しましたよ! 

 全部断られたんですよ! 

 他を当たってくださいと言われたんですよ! 

 これだけ頼んでもダメなんですか! 

 もういいです!



 怒り心頭な顔で叫んだ春子さんは、受話器を壁に投げつけた。

 床に座り込み、傷のついた壁に寄り掛かり、声を上げて泣き始めた。

 日菜子ちゃんと寛太くんが、春子さんの元に駆け寄ってきた。

「ママ、どうしたの?」

「大丈夫?」

「何でもないのよ。大きな声を出して、ごめんね」
 優しい声で謝った春子さんは、ふらつきながら立ち上がり、タオルで顔を覆った。

「私がしっかりしなくちゃ」とつぶやいて、受話器を元に戻した。
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