明日の蒼の空
 春子さんは……今夜も銀行の通帳を見ている。

 残高は……少ない。



「今月も赤字ね。こんなに安い給料じゃ、どうしようもないわ。こらからもっと教育費が掛かるし……。思い切って、風俗で働こうかしら」
 溜め息混じりにつぶやいた春子さんは、椅子から立ち上がり、寝室に入っていった。

 姿見の前に立ち、スウェットを脱いで、ブラジャーを外した。

「ちゃんとメイクをすれば、まだまだいけるわね。胸も垂れてないし」

 正常な判断ができているとは到底思えない。

 生活が苦しいのはわかるけど、風俗店で働くのは、私はどうかと思う。

 正行さんが知ったら、悲しむどころではない。

「知らない男のアレを咥えるのは嫌だけど、仕方ないわね」

 もう聞いていられない。

 もう見ていられない。

 春子さんの様子を見守るのは、もうやめよかと思った。

「日菜子と寛太のためだもの。体を売るくらい、どうってことないわ」
 震えた声でつぶやいた春子さんは、両手で顔を叩いた。

「怖くない。怖くない。怖くなんかないわ。私には、守るべき子供がいるから」
 涙声でつぶやいて、にこっと微笑んだ。

 辛いのは、私ではなくて、春子さん。

 また明日も様子を見に来ますね。と声を掛けて、私は家に戻った。
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