明日の蒼の空
「ほら、このお金で好きなものを買ってきなさい」
 春子さんが日菜子ちゃんに千円札を手渡した。

 まだお金はある。私はほんのほんの少しだけ安心した。

「万引きはとてもいけないことなのよ。人様のお金を盗むことと同じことなのよ。二度と万引きはしないと約束しなさい」

「うん。約束する」

「僕も約束する」

「万引きは、もう二度としません」
 日菜子ちゃんと寛太くんは口を揃えて言った。

 春子さんに向かって何度も謝った。

「ママがいけなかったのね」
 春子さんはにっこりと微笑みながら言った。

「風邪が移るといけないから、日菜子と寛太は部屋で遊んでいなさい」

「う、うん……」
 返事はしたものの、日菜子ちゃんも寛太くんも動こうとしない。

「ほら! 早く部屋に行きなさい!」
 春子さんはかなり強い口調で言った。

 日菜子ちゃんと寛太くんは寝室から出て、泣きながら子供部屋に駆け込んでいった。

「日菜子と寛太のために、早く元気にならなくちゃ」
 小さくも力強い声でつぶやいた春子さんは、倒れるようにベッドに横になった。

 目から涙が零れ落ちている。
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