明日の蒼の空
「近くで見させてもらっていいですか？」

「いいわよ」

　ひばりさんに了解を得た私は、地上から五メートルの高さに描かれているひまわりの絵に近寄り、いろんな角度から見上げてみた。

　真下からだと微かに見える。けれど、ひまわりの絵だとはわからない。

　真横からだと細い線のように見える。地面に対して斜めになっているのがわかる。

　絵の表面はデコボコしていない。平らな平面になっている。

　裏側から見ても、ひまわりの絵。

　ひばりさんが空のキャンバスに描いたひまわりの絵を間近で見て、いくつかわかったことがある。

　地上から空のキャンバスに絵を描くということは、低いところから高いところに描くということになる。

　低いところから高いところに描くには、距離と角度が必要になる。

　すぐ目の前に描く場合は、距離を取る必要はないし、絵の角度は斜めにはならない。地面に対して垂直に描ける。

　例えば、高いビルの上の方の壁に絵を描くとしたら、誰だって、ビルから離れた位置から描くと思う。そうしないと、非常に描きにくいし、首が痛くなって、肩が凝ると思う。

　楽な姿勢で描くには距離を取って離れた位置から描く。

　地上から五メートルの高さに描かれているひまわりの絵の真下から、ひばりさんが立っている位置までの距離は、目検討で十メートルくらい。

　空のキャンバスにひまわりの絵を描いていたときのひばりさんは、そんなに顔を上げていなかったし、楽な姿勢で描いているように見えた。

　どうして空のキャンバスに絵が描けるのか。本当に不思議で不思議で仕方がないけど、とにかくすごいことだけは確か。
< 59 / 315 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop