蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「龍星」

目の前で起こった出来事に、一瞬照れてしまったが、それでも雅之は口を開いた。

「説教なら聞きたくない」

「説教できる立場じゃないさ。
 ただ、帝が」

「あの男?」

龍星は訝しげに顔をあげた。

そういえば、あの男、出掛けに何か意味深なことを口にしてはいなかっただろうか?
そもそも、千を娶ったときですら【あの人】に似ているから捕まえたと公言して憚らなかった男だ。

龍星は眉間に指を当て、ぐらつく感情を飲み込み思考を巡らせる。
ばらばらだった欠片が集まって一つの形を作り上げていく。


【あの人】というのはこの場合【毬】のことを指すのではあるまいか。

帝は東宮時代嵐山の御用所に足しげく通ってなかったか?
毬は長いこと嵐山に住んでいたはずだ。

二人の接点があっても不思議はないはずだ。


……毬……


今朝まで隣で寝ていたのに。
さっきまで、腕の中に居たのに。
あの愛くるしい瞳で、真直ぐに龍星のことだけを見ていたのに。

離れたくないと言って、泣いていたのに。
自分のことを好きだといって、ぎこちなく接吻(キス)までしてくれたのに。




龍星は胸騒ぎと息苦しさに、眉間に皺を寄せずにはいられなかった。

ぎゅっと、手の中のかんざしを握り締めた。



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