蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
ドンドンッ
ドンドンッ

寝室に漂う甘く静かな空気を、派手な音が切り裂いた。

毬が不安そうに瞳を開ける。

「安倍様っ」

遠くから聞こえる、悲鳴に似た怒声。


聞き覚えのある女の声に、龍星はため息をつく。
が、一向に動く気配のない龍星に毬が口を開く。

「龍、呼ばれているよ。行かないと」

「せっかく毬がここにいるのに?」

毬はふありと笑い、空気をより一層甘く染める。

「私はずっと居るんでしょう?」

「そうだよ。俺もずっとこうしていたい」

龍星らしからぬ甘えた発言に、毬がクスクス笑う。

龍星が見たくてたまらなかった、無邪気に笑う毬がそこにいた。


「だったら私も一緒に行く。それで良い?」

二人が囁くような会話を楽しんでいる間も、扉を叩く音と龍星を呼ぶ声は大きくなるばかりだ。


龍星は諦めたように息を吐き、起き上がった。


「分かった、俺が行ってくるよ」


そう言った龍星は、いつもの冷静沈着な表情に戻っていた。
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