蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「遅くなって悪かったね。
 もう、休みなさい」

龍星が毬の耳元で囁く。

「嫌よっ
 今から雅之とお酒飲むんでしょ?
 私も混ぜてくれなきゃ嫌」

眠そうな舌足らずな声で、毬が応えた。
龍星は形の良い瞳を細めて笑った。
子供を宥めるように、頭を撫でる。

「だったら、ここに居るといい。
 ここで夕飯にしてもいいかな?まだ、食べてないんだ」

「いいよ」

言って毬は龍星からあっさり離れた。

龍星が手を叩くと、家の者が食事の準備を始める。

雅之の瞳には、それは美しい女中のようにも見えるが、決して人ではない。
毬は【それ】の元に笑顔で駆け寄った。

「私、手伝うっ」

「あら、いつも申し上げているでしょう?
 お姫様は座っていれば良いのよ」

「もう、華はいつもそういうのね。
 大丈夫、毬だって上手に出来るんだから。心配しないで?」

「まぁまぁ、相変わらずだわ」
 
どうやら、【それ】にもすっかり懐いて溶け込んでいるようだった。





「急に頼んで悪かった」

先におかれた酒を注ぎながら、龍星が紅い唇を開く。

「いや、全然。
 俺はいつでも構わぬよ。
 それにしても、どうしたんだ?」

雅之は杯を受け取り、龍星の杯に酒を入れながら聞いた。

「いや、つまらぬ野暮用だよ」

龍星は酒で唇を湿らせながら、記憶を辿り突き放すような笑いを浮かべた。



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