蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「今日は一人かい?」

馬主の翁に言われて、毬はこくりと頷いた。


御所を飛び出した毬は、気付いたら東河の近くの馬舍に来て、外から馬を眺めていた。

「そうしていると、一層お姫様だね」

翁は毬の豪奢な着物を褒める。

「でも、これでは馬に乗れないわ」

「そうでもないよ。とはいえ、まあそんなに素敵な着物が汚れるのも困るか。
着物、貸そうか?」

「いえ。今日は見るだけで……」

「そう?
ではこちらにどうぞ」

毬は翁に誘われるがまま、着いて行く。

そこでは雅之が流鏑馬の練習をしていた。
馬に乗って、弓を構えて的を射る。

真剣な眼差し。
肌けた着物。
しなる筋肉。
風を切る矢。

ビュン、と派手な音がして矢は惜しくも的を外す。


雅之はもう一本矢を取ると、今度は右から左に馬を走らせ矢を放った。


ビュン。


次はギリギリ的の端に当たった。
しかし、雅之は満足することもなく再度弓を構えた。
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