こちら、メディア検閲科
職員室の隣にある職員休憩室。
俺はそこに担任に連れていかれ、
そしてケバいおっさんと二人きりになった。
生きて帰れるんだろうか。

「どうしてうちの大学に入りたくないの?」

ケバいおっさ……辰岡さんは椅子に座り、コーヒーを一口飲むなりそう言った。
まさか、この人最初から聞いていたのか。
口をひくつかせながら言う。

「あー、あの、言ってた通りです。今回のテストの結果、本当にたまたまだったんですよ。誰に言っても信じてくれないんですけど……。」

「たまたま?何故そう言うの?」

いや、聞いてただろうに。

「俺の成績を見れば分かることです。俺は入学当初からずっと、最下位をとってきました。
そんな最下位常連がいきなり全国一位を採るなんて、たまたまだとしか言えません。
たまたま良い点を採って内定をもらっても、
きっと俺には追いつけないに決まってる。もしも俺が過信して入学しても、すぐに退学するでしょう。
そしたら両親が悲しみます。
偶然が呼んだ偶然に飛びつきたくないんですよ。」

父が言っていた。『どれだけ自分が劣っていても正直で在りなさい』と。
どれだけ幸運が転がり込んでも、それが自分にとって嘘をつくようなものであるならば縁を切りなさいと。
自分に正直になりすぎたから
ぼっちで遊んで最下位になったのは内緒の話だよ。

辰岡さんはフフっと口角をつり上げて笑う。

「よほど成績に自信がないのね。」

そして足を組んで、椅子の背にもたれた。

「齋藤君、あなたは少し思い違いをしているわ。」

彼の言葉に、俺はえっ?と眉をひそめる。

「私があなたを学科に呼びたいのは成績からではないの。
確かに私が属している大学は日本でもトップの名門校。入るためには相当の勉学が必要よ。
でも我が『メディア検閲科』は、そんなガリ勉を求めてはいないわ。
真実を見抜くことのできる素直な人よ。」

辰岡さんはじっと俺を見つめる。

「特に、あなたのように自分に正直な人ならね。
私は成績ではなく人柄であなたを選んだの。
あなたを視点に置いたきっかけは確かにあなたの言う、偶然の結果よ。
そんなことは此処の校長から内申点を見せてもらった時点から分かってたわ。
大切なのは人間性。普通なら天狗になってこの偶然の幸運に飛びつくはず。現代はそんな卑しい人ばかり。
でもあなたはきっぱりと断った。あなたなら必ず、正しきを説いて世を正せる。あなたほどこの学科に適している人はいないのよ。」

……何言ってんだこの人は……
何話しを壮大に膨らましちゃってんのよ……

「それとも何?成績の他に、ウチに入りたくない理由がおありなの?」

「いや、そういうわけではないんですが……」

内心、めっちゃ困ってた。
んいや、間違いじゃないことはないことは分かったんだけどさ、
それでも何となく嫌っす。
辰岡さんはコーヒーを飲むなり言った。

「あなたがどう決断を下そうと知ったこっちゃないわ。
でも、今の成績では卒業は難しいようね。大学進学しなければ就職が厳しい今のご時世中退者はどこの企業にも雇ってもらえないでしょう。
未来の為にも保険として入学しとけば良いんじゃないの?
このままニートになって亡くなるよりも、私はそうした方がいいと思うわ。」

「んなっ!!」

こ、こいつ!汚いことを‼
俺の未来予想図をを黒に塗り潰しやがったな!
でも、的を射てる‼‼
痛い‼

「……ぐぅ……」

目をグッと閉じる。
くそ、ちくしょう……、不安になってきた……
俺は本当に将来ニートになるのだろうか……。
苦しむ俺を見て、辰岡さんは微笑んだ。

「あと一押しってところね。
どうでしょう、斎藤くん。この週末、学科見学に来ない?交通費は全額負担するわ。
但しその日の内にウチに入るか入らないか決めなさい。
良い答えを期待しているわよ。」


「……はい、お願いします。」

とりあえず見てみるしかないか……


これで辰岡さんと一旦別れたんだけど、ヘトヘトでその後の記憶は全くなかった。
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