笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
1 アラサーダメダメ女の決断
 ガタンゴトン。ガタンゴトン。ガタンゴトン。
 最近の電車は、ガタンゴトンなんていわない。
 揺れも振動も少ない。もう少し人が少なければ、快適な乗り物だと思う。

 発車オーライ♪ 出発進行♪ 汽車汽車ポッポッポ♪ ハトハトポッポッポ♪ きみもあなたもあたしもみんなポッポッポ♪ 
 あたしは暇つぶしに心の中で電車の歌を歌う。

 スマホを見てる人。
 本を読んでる人。
 携帯音楽プレーヤーで音楽を聴いてる人。
 メイクをしてる人。
 パンをかじってる人。
 クスクス笑ってる人。
 涙ぐんでる人。
 くしゃみをしてる人。
 咳をしてる人。
 鼻をかんでる人。
 ぼーっとしてる人。
 あくびをしてる人。
 座席に座って寝てる人。
 立ったまま寝てる人。
 ずっとうつむいてる人。
 うーうー唸ってる人。
 ぶつぶつ独り言を言ってる人。
 きゃぴきゃぴしてる人。
 もぞもぞしてる人。
 電車の中にはいろんな人がいる。
 あたしはキョロキョロしながら、人間観察を楽しむ。

 電車は必ず駅に止まる。
 降りる人と乗る人がいる。
 どっからどう見ても、おしくらまんじゅう状態なのに、まだ乗ってくる人がいる。
 きみはそんなに電車が好きなのか。
 そんなに会社に行きたいのか。
 そんなに働きたいのか。
 あたしはつり革につかまりながら、心の中で何度もつぶやく。

 隣のおっさんの吐く息がもの凄く臭い。
 臭くて臭くてたまらない。
 きみは何を食ってるんだ。
 いったい何を食えば、そんなに臭い息になるんだ。
 ちゃんと歯を磨いているのか。
 電車なんか乗ってないで、病院に行って診てもらったほうがいいんじゃないのか。
 あたしは息を止めながら、心の中で質問する。

 あたしは満員電車が嫌いだ。
 スーツが嫌いだ。
 仕事が嫌いだ。
 だったら、家でじっとしてればいいだろ。
 あたしは流れゆく景色を見つめながら、自分に問い掛ける。

 アパートから会社まで、電車を二本乗り継いで、一時間半以上も掛かる。
 今朝も眠くて眠くて眠くてたまらない。
 それでもあたしは満員電車に揺られて会社に向かう。
 生きていくために、働かなければならない。
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