笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
12 新たなる出発
 フェリーから降りた瞬間に、ひんやりとした冷たい空気に包まれた。

 Tシャツ姿ではちょっと寒い。

 八月の中旬とはいえ、北海道の朝晩は冷えるようだ。厚手の服を持ってきて良かったと思う今日この頃。

 あたしは北海道の冷たい空気を肌で感じながら、函館フェリーターミナルに入り、待合室のベンチに座って財布の中身を確認した。

 所持金は、四万千八百二十三円。出発時から、十七万円以上も減ってしまった。

 帰りの交通費を残しておかなければならないので、使えるお金は限られている。残り少ないお金と路上ライブの稼ぎだけで、宗谷岬まで行かなければならない。北海道グルメを楽しむ余裕も旅館やホテルに泊まる余裕もない。
 
 みーは♪ みんなのみー♪ ほーは♪ 北海道のほー♪ みらっしゃいませ♪ みらっしゃいませ♪ ようこそお出でくださいました♪ みらっしゃいました♪ みらっしゃいました♪ 北海道にみらっしゃいました♪

 心を奮い立たせるために、あたしは北海道にご来店の歌を歌いながら立ち上がり、函館フェリーターミナルを出発して、歩いて函館山に登った。

 さすが百万ドルの夜景。色とりどりの灯りが街を彩っている。出来ることなら、まなちゃんと一緒に眺めたかった。すごく寂しいけど、仕方がない。
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