食わずぎらいのそのあとに。
2月の貧血
バレンタイン当日にデートだーって、最後に盛り上がったのはいつだったかな。

祝日でもなんでもない2月14日。ここ数年はもう、恋愛イベントではなく社内の結構重要な行事の日という感じになってる。

20代最後のバレンタインデーも、やっぱりそう。お互い仕事も忙しく、彼氏がいてもデートどころじゃない。

この日は午後3時にコーヒーとチョコを男性社員全員に配って歩くのが、我が社の開発部の慣習。

男女比率がかなり偏っている開発部では、大変だから義理チョコを廃止しようという動きもあるにはあった。でもエンジニアの皆さんたちから『お返しはきちんとしますから、伝統行事は大切にしてください』という強い申し入れがあった結果、存続が決定した。

伝統行事じゃないと思うけど……

そんなにチョコが欲しいものなのかなぁ、幾つになっても男の人って。

まあとにかく、大事な行事なんだよね。



営業部からもコーヒーメーカーを借りて来て、今年もフロア中に配り歩いて行く。一人一人に声をかけながらなので、手分けをしても意外と時間がかかる。

給湯室に戻ったら、入社2年目の植木真奈がテキパキと片付け始めてくれていた。

「香さん、コーヒー行き渡りましたか?」

「うん、ありがとう。でも田代さんがお代わり欲しいって言うから、もう一回だけ入れられる?」

田代部長はお疲れだから、特別にもう一杯ぐらいサービスしよう。と思ったら真奈に睨まれた。

「みんなも欲しがって収拾つかなくなりますよ」

「大丈夫。田代さんは特別だよ」

「そうやって香さんが甘やかすから、部長がワガママになるんですよ」

とため息をつきながらも、真奈が新しいフィルターを用意し始めている。優しい子だ。
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