食わずぎらいのそのあとに。
2月の懺悔
気付いたら、朝で。タケルに抱かれたまま、ベッドの中にいた。

「おはよ」

私が動いたのに気づいて、眠そうな目を合わせる。眠れなかったんじゃないかな、昨日。


「おはよう」

「病院行こう。俺も行くよ」

「うん、ありがとう。でも、1人で行ける」

「また倒れたら困るだろ」

「大丈夫。鉄剤もらってある。仕事、休めないでしょ」

「こっちのほうが大事だよ」

からかうような調子で言われて、目を合わせて思わず微笑む。

覚えてるよ。付き合う前、二人だけで飲みに行くようになって、そんな風に言い合ったことがあったね。

1年も経たないうちにこんな風になるなんてね、想像もしなかった。



結局、土曜に病院に二人で行くと決めて、今日は出社すると言うと、タケルは納得いかない顔をする。

「立ちくらみは今日は平気そうだし、起きて動いているほうが調子がいいの」

「じゃあタクシーで行こう。俺一回帰って戻って来るから」

でも、と言いかけた私を無視するようにして、あっという間に出て行った。



この話はしないと言った通り、体調の心配だけで、これからどうするかとか、そういう話をタケルは一切しなかった。自分で望んだくせに、何も言われないとまた不安になったりする。

なんだろう、この情緒不安定は。



「調子悪かったら、今日も一緒に帰るから」

会社の裏でタクシーを降りて、タケルが言う。

「うん。そしたら連絡する」

本当は仕事の邪魔なんかするつもりないけど。連日で倒れることなんてそうそうないし。

「先に行って。誰かに見られたくないから」

裏口になんか誰も来ないけど、一応ね。

「いいよ。俺が表に回ってく」

タケルにあごで促されて私が先に裏口から入ることにする。

「香、週末ちゃんと話そう」

後ろから声をかけられて、振り返ったらタケルはもう歩き去っていた。

いつも、こんな風に背中を見てる気がするなぁ。

そんなわけないのに、なぜかそう思った。遠ざかる背中を見ながら、言うべきことがわからない。


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