食わずぎらいのそのあとに。
「俺、父親いないし正直よくわかんないけど、頑張るから。香のことも、子供のことも、大事にする」
下を向いたまま、タケルが小さな声で言う。言われた途端、どうして思い至らなかったんだろう、って気づく。
ずっと片親で育ったはずのタケルには、きっと結婚とか子育てとかぴんと来ないんだ。
もしかして、できちゃった婚というのはすごく抵抗があるのかもしれない。聞いてないけど、自分がそうなのかも。
どうしよう。私、自分の思い通りの流れじゃなかったからって勝手に凹んでた。
タケルはもっと、複雑かもしれないのに。
顔を上げたタケルに、何も言わずに抱きしめられる。ぎゅーっと抱きしめ返した。傷ついた子供を抱きしめるような気持ちで。
「結婚しよう」
耳元で大好きな低い声が言う。
嬉しいはずのその言葉は、ひどく悲しげに耳に響いて、私は返事の代わりにまたぎゅっとしがみつきながら、心の中でまた謝った。
ごめんね、ごめんねタケル。
産みたいの。嬉しかったの、タケルの子どもを産めるのが。
だんだん心が離れ始めたのを、こんな風につなぎとめることになっても。もしかしたらタケルのご両親みたいに、うまくいかなくなるかもしれなくても。
ずるくてごめん。自分勝手で、ごめんね。でも好きなの。ごめんね。
抱きしめていた身体を少し離して言ってみる。
「今日は泊まっていって?」
「いいよ」
そんなこと初めて言ったから、驚いているようだった。重たい女になりたくないと思ってた。だけど、今は受け止めてほしかった。
ベッドに入って、ゆっくり舌の絡まるキスをする。長く、優しく、何度も。
ちょっと離れた時に、目を合わせて言った。
「抱いて?」
「いいの? 身体、平気?」
「うん」
私の身体を気遣うように優しくしてくれたけど、途中でスイッチが切り替わったようだった。
「香」
名前を呼びながら抱きしめられ、冬なのに汗だくになりながら抱いてくれた。
腕の中で眠った。
久しぶりに、嫌な夢を見なかった。