食わずぎらいのそのあとに。

でもあっという間にひっくり返されて、首に手を回したまま上から見下ろされる。

「ありがと」

余裕の笑顔で柔らかく口づける。ずるい。言ってよ。

「かわいい、その顔」

「伝えなきゃダメって自分で言ったのに」

「俺、昨日から十分言ってない?」

「足りない」

「好きだよ」

いかにも言い慣れた感じで言って、キスした。

「なんかずるい」

「なにが」

「慣れてる」

「言わせといて……」

そう言って脱力したように潰れた。

「痛いよ」

「あ、ごめん」

はっとしたようにタケルが身体を起こす。別にお腹がってわけじゃないのに。大事にしてくれるんだなあって、満足した。



好きってほとんど言ってくれないんだけど。言うと確かに慣れてる感じがいやだったりする。ワガママだよね、わかってる。

「コーヒー入れようかな」

私も起き上がって言った。私の分はカフェインレスにしないとね。

「俺がやるから、座ってて」

立ち上がろうとした私の肩を押さえて、タケルが腰を浮かせる。そのままおでこに軽くキスをしてキッチンに向かった。

いちいちかっこいい。自覚が足りないんじゃないの。振られるわけないでしょ。




コーヒーを待ちながら、こんなに幸せでいいんだろうかとわが身を振り返る。

昨日まであんなにどん底気分だったのに、バカだなぁ。ほんの少しのことで上がったり下がったり。

幸せにしてあげないとって思うのに、結局は私がしてもらってばっかりだ。



ちょっとずつ。ちゃんと話したり、伝えたり。お互いにちょっとずつ、一緒に幸せになろうね。
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