食わずぎらいのそのあとに。
3月の報告
タケルはできるだけ早くと言ってくれたけれど、体調が落ち着くのが一番かなということで、私の実家へ来たのはもう3月の頭。

電話で妊娠と結婚は伝えてあって、向こうは歓迎ムードだって言ってるのにタケルは緊張している。行きの車内でも珍しく落ち着かない様子だった。



いいって言ったのにきちんとスーツを着てきたタケルが、客間で正座して頭を下げた。

「順番が逆になって、申し訳ありません」

「結婚考えろっていうのは、こういう意味じゃなかったんだけどね」

「はい。本当に、申し訳ないです」

向かいに座ったお父さんが胡座をかいて偉そうにしている。

口を挟みたいけれど、タケルに「お父さんと直接話したいから香は黙ってて」とくぎを刺されている。



「でも、あれだ。タケルくんは俺に似ていい男だから、まぁ香の策略にはめられたんだろう」

どこも似てないでしょ。ていうか、あいさつに行くって言っておいたのに先に飲んでるってどういうことなの。

「いえ、俺のほうが惚れこんでるので。こんな形ですが香さんは結婚を了解してくれました。お父さんからもお許しいただければと思います。よろしくお願いします」

タケルは姿勢を崩さず、かしこまって頭を下げてくれる。

お父さんはともかく、母と姉からは「タケルくんかっこいい」と賞賛する雰囲気が感じられる。
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