食わずぎらいのそのあとに。


「なんだよ、そんな固いこと言うなよ。うちだって香は行き遅れるのかって心配してたんだから、結婚も子供もなんて二倍めでたいわけだから、よろしく頼むよ」

形勢の悪さに気づいたのか、へらへらとお父さんが居心地悪そうに笑い、タケルに膝を崩すように勧めた。

うちはお姉ちゃんが結婚も出産も早かったからね。でも今時、三十なんてまだまだ結婚してない人たくさんいるのに、ほんと何言ってんの、もう。

「タケルくんも遠慮しないで、一杯やっていこうよ」

「いえ、今日は車なので。すみません、次の機会に」

「うちに来るのに車ってなぁ、そりゃないよなあ」

貧血気味の妊婦連れだからわざわざ車借りてきてくれたんだからね。 それでも無理やりお酒を勧めているお父さんをみんなで止めた。






お茶を入れるからと私は居間から連れ出され、キッチンで母と姉に囲まれている。

「惚れこんでるんだって。いいわね、言われてみたいわ、あんなイケメンに」

母は一人うっとりしている。そういえば、タケルは ああいうところでは照れないと思う。あいさつしたいって散々言ってたし、言うこと考えてきたんだろう。

「でも口のうまいイケメンだからね、浮気の一回や二回はすると思うよ、今後。そういう時にはどうするつもり?」

ああ、お姉ちゃんはいつもどおり冷静。そして言いにくいこともズバッと来る。

「浮気がばれたら即離婚とか、先に宣言しといたほうがいいんじゃないの」

「うーん、別にいいよ、わざわざ言わなくても。お父さんがいろいろ言ってるみたいだし」

「あんたってそうやっていつも人に頼ってばっかりでいいの? しっかりしなさいよほんと」

お姉ちゃん、私ね、会社ではもっと周りに頼れって上司に言われてるんだよ?

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