食わずぎらいのそのあとに。
「でも平内さんは相手にしてないんでしょ」
私とタケルがこっそり付き合ってることを知ってる真奈がフォローしようと頑張っている。去年お世話になったからなぁ、今は応援してくれてるんだよね、私たちを。
「それがね、なんか弱みを握られてるんじゃないかと言われてて。結構言いなりなんだよ」
「あの平内さんが? 女の子に言いなりってどういうこと?」
真奈がフォローを忘れて素で驚いた声を出したので、沙耶ちゃんが嬉しそうに続ける。
「よく呼び出されてるし、こないだ2人でランチしてたし。おかしくない? 業務かぶってないし、同期でもないのに」
ああ、安岡さんてあの総務の子か。前に2人でいるのに遭遇したことがある。付き合う前だったけど。仲いいのかな、聞いてないな。
「平内って女の子に優しいもんねぇ」
他人ごとみたいに言った。真奈は心配してくれてるみたいだけど、それどころじゃないんだよね、今。
沙耶ちゃんと別れて開発フロアに戻りながら、真奈が微笑みつつこそこそ話してきた。
「やっぱり香さんは大人ですよね。あんな噂全然気にしないんですね」
「別に大人じゃないけど。私も噂は立てられるし、しかたないかなと」
「平内さんが浮気とかするはずないですよね! 余計な心配しちゃってすみません」
浮気かぁ。さすがに今それはないと思うんだけど、でも、だんだん遠くなってる気がするんだよ。
なんて真奈には言えないな。
真奈は去年の秋、平内とぎくしゃくしていた私にちゃんと付き合うきっかけを作ってくれた。
タケルにすごく憧れてるみたいだったのに「私はちゃんと玉砕したから、すっきりしました」と明るく言ってくれたので、私もあえて気を遣わずにいさせてもらってる。
内心引きずったりしてるのかなぁと思ってたけど、ほどなく同期と付き合うことになったようで、やっぱり思いっきり当たって砕けたのが良かったのではと二人で笑った。
あの時も酒豪の真奈につられてうっかり飲んじゃったなぁと思い出したら、お酒のことを考えただけでまた気持ち悪くなってきた。
まずいまずい。そういうの忘れて、仕事に集中しよう。