食わずぎらいのそのあとに。
「どうしたの?」

柄の悪い友達がいるってびっくりした?

「いや、なんかほんとに結婚したんだなって。タメ口だしなあ」

「それ関係ないよ、ずっと前からなの。敬語なんて新人の時だけで、影ではずっと偉そうだったよ」

「マジですか? なんだよお前、そんなことしてたの?」

小林が突っかかるけど、タケルは意に介さない。

「そう簡単に落ちないんだから、時間かけて当然だろ」

またそういうこと言って、あの頃は女の子と遊んでたくせによく言う。

「見ろ、いまだに分かってない。自覚ないんだよ、この人」

「香さんの鈍感っぷりは半端ないですよね」

何? 真奈まで便乗して。真奈に鈍感とか言われるようなことあった?

「付き合ってって直球で口説いて、ありがとって完全スルーされたりしたからね。頑張ったよ俺」

「ええ? ほんとですか? さすが姫」

小林がまた姫とか呼んでる。これっていつになったら終わるの。もう30なのに姫とかイタすぎるから、やめて。

元はと言えば大学でその呼び名が定着しちゃったのが、運悪く会社でもばれちゃったんだ。そのバイオリン弾きの高木くんのせいだった。

「やめてよ、それ。姫で思い出したけど、楽器って昔一度居酒屋で会ってるメガネの人なんだけど覚えてない? 席まで探しに来て顔出してとか言ってきた人」

確かタケルが呼び戻しに来てくれた。まだ新人くんでかわいかった頃だ。

「ああ、メガネくん。姫を守ってくれる人か」

守ってくれる? 別にそんなんじゃないけど。

「わかった。香さんさらってって、武田さんが切れそうだったあの人ね」

「なんですかそれ、小林さん。詳細教えてください!」

真奈も話に入ろうとするけど、どうやら脚色されてる。大学の人たちの飲み会に居酒屋でたまたま会って、ちょっと向こうにも顔出しただけ。

でもあの人、真顔で姫って呼ぶからややこしいんだ。

小林があることないこと真奈に吹き込み始めて、真奈が信じてそうで困る。
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