ビルに願いを。

それで終わったはずの事件がさらに尾を引いていくことを悟ったのは、今度は社長室に呼び出された時だった。

「不審者にオフィスの直通番号とか名前とか教えちゃったんだって?」

オフィスの隅にあるガラス張りの広い社長室で、目を細めた永井社長に見下ろされている。話に尾ひれがついている気がするけれど、悪いのは私だから仕方ない。

「すみません。以後絶対ないように気を付けます」

「向いてないんじゃないかなぁ、うちのスタッフ」

誠心誠意謝ろうと頭を下げたのに、突き放すように言われて折り曲げたままだった身体がこわばる。

まさか、早くもクビ? まだ1か月も経ってないのに?



「何がおっしゃりたいんですか、永井社長」

私の隣に立つ麻里子さんが冷静に、でも強気で聞いてくれる。かばってくれるようだ。

すみません、麻里子さん。ワンコのように忠実にあなたについていきますから!

「スタッフは、まぁすぐ採用できるよね」

「お言葉ですが。このビルでの採用の難しさをお忘れではないですよね。浮かれた子では務まらないんですよ」

「うーん、そうだけどさ、優秀な麻里さんが探せばまた見つかるじゃない? でも、丈が気に入る人材を見つけるのはもっと大変なんだよね」

ええ? クビではなくてそっち? 私あの人の愛人として差し出されちゃうの?
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