ビルに願いを。

それにしても、丈さんにそういう事情もあったんだね。会社は奪われ、彼女とは離れ離れ、病気の家族に会いにも行けない。

「やさぐれてもしかたないよね」

うん、かわいそうな人なんだ。私もちょっと冷たくされても我慢しよう。クビは嫌だけどなぁ。

「やさぐれるって何?」




「おい、聞いてる?」

怪訝そうな声に、やっと自分に話しかけられていることを理解した。丈さんが、私に話しかけてる!

「えーと、はい、やさぐれると言うのは、心が荒むと言うか」

説明しようとしながら、丈さんのこと言ってるってわかってるのかなと気になる。

「すさむ? in English?」

首を傾げられるけれど、英語でそんな単語知らない。丈さんは諦めてキーボードを向いて自分で調べたようで、「家出?」と呟いている。

え? そういう意味じゃないけど、何見てるの?

隣の席の画面をのぞいて「それよりはこっちかなぁ。すねるとか」と指さした。

「すねるとはどう違う?」

「うーん、すねるって言うのはこう言う感じで、やさぐれるはこう」

口を尖らせて目をそらしたかわいい感じと、もっとこうグレた感じの目つきの悪い顔で表現した。言葉では言い表すの難しいよね。

すると、くっと声を漏らして丈さんが下を向いて笑っているのに気づく。

笑われちゃった、でも、笑ってくれた! やった!



「俺そういう顔なんだ?」

笑顔を引っ込めてクールに聞かれる。あ、そうだ、聞かれてたんだった。
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