そのイケメン、オタクですから!
「いらっしゃい。留愛ちゃん」
「おじさん、こんばんは」
商店街に入って5件目の、白と黒の看板の定食屋さん。

週に3回はここで夕食を摂るから、おじさんは「いつもの?」と聞いてくれる。
「はい。お願いします」

ヘルシー定食という分かりやすい名前のメニュー。
一食500キロカロリーに計算されているのに、ボリュームがあって美味しい。

このメニューが出来てからOLさんの来店が増えたって言ってた。おじさんの料理は家庭的で美味しいから、当然だと思うんだよね。

店の奥からパタパタと足音が響いて、バンダナを巻いた男の子が顔を出す。
「おぅ、七瀬。今日水島は?」

小学校から一緒の健くん。
短い前髪にたれ目が印象的な男の子だ。中学までは一緒だったんだけど、高校は近所の公立に通っている。


私たちの中学校から今の高校に進んだのはよっちゃんと私だけなんだよね。
おかげで以前の姿を知られなくて済むんだけど。

「保育園のお迎えだって」
「そっか、あいつも大変だな。父ちゃん、俺も飯。七瀬と一緒に食ってもいい?」
おじさんが「はいよ」と返事する。

よっちゃんは3人兄弟の長女で面倒見がよくて、年が離れてるから時々お母さんに頼まれて保育園のお迎えに行く。

それ以外は、私のバイトがない日は大抵ここで夕食に付き合ってくれるんだ。
だから一人じゃ可哀相だと思ってくれたのか、健くんが隣の椅子を引いた。
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