そのイケメン、オタクですから!
「いつもアイドルみたいな顔して上から手を振ってるだけじゃダメです。国民一人一人に寄り添える王子じゃないと民はついて来ません」

「は? 誰が王子……」
まだ文句を言ってる先輩を引っ張って歩かせる。
「お前は一体何なんだ……」
先輩は大げさなため息をつきながらも、一応ついて来る。

「七瀬ちゃんはホント強引だねぇ」と呟く桜井先輩と、「頑張ってねー」と手を振るよっちゃんに見送られながら部屋を出た。

さて、怠け者の王子様は私が何とかしなくちゃ。
顔だけで国民の信頼が得られるならいいけど、そんなわけはない。

「庶民のようにゴミ拾いをして親近感を上げましょう。国民に出会ったら親しみのある笑顔で、難しい話はしないように」

すっかり王子様の教育係になったつもりの私は、及川先輩に指示を出す。
呆れた顔で、先輩は「へいへい」と答える。

やる気がない態度に前途多難だと思ったけど、生徒とすれ違うようになると極上の笑顔を向けて「選挙よろしくな」なんて言ってる及川先輩。

女子は「絶対入れるからね」って赤い顔をしているし、男子も「おう、お前なら出来る」なんてハイタッチしてくれたりする。

私は後ろでゴミ袋を持って金魚のフンみたいについて行くだけ。
これじゃ教育係どころか黒子だ。

女子の人気が命の及川先輩が私と二人で歩いてるのはまずいかなと思ったけど、誰も私の事なんて見ていない。

眼中にない、というのはこういう事なんだろう。
そういう意味では、本当にこの格好は楽だ。
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