ブスも歩けばイケメンに当たる⁉
何を言い出すんですか、部長様。

「…からかってるんですか?」
「…いや、こっちか、からかわれてるんじゃないかと思ってるんだが」

…部長の言動をまじまじと見つめる。…どうやら、本気でいってるようだけど

「…伊集院桜子と言えば、お分かりになりますか、部長?」

…!!!

な、何?どうしたの?

微かに見える部長様の顔は、物凄く驚いている。そして、周囲もざわつく有り様。

私、変なこと言ったっけ?

「…あの、部長」
「…そ、そうか、そうだな。その声は?確かに伊集院君の声だ。悪かったな。仕事をしてくれ」

「…あ、あの、部長これ、昨日の監査資料出来ました」
「…あ、あぁ、ありがとう、助かったよ」

資料を受け取ると、部長はデスクに戻ってしまった。

「…なんだったんだろ、一体?」

まだ、周囲はざわついていたけど、私は全く見えないので、気にせず仕事を始めた。

「…伊集院さん、これお願いします」
「…あ、はい」

手渡された領収書を掴んだのに、相手は離してくれず、困惑する。

「…あの?」
「…本当に伊集院さん?」

…何なんだ、今日は。

「…そうですけど?」
「…今日、ランチ一緒にどう?」
「…は??」

突然のランチのお誘い。…今まで、こんなこと一度もなかったのに。

「…すみません…先約がありまして」
「…どうしてもダメ?」

「…どうしてもダメです」
「…一回くらい、いいだろ?」

…なかなかしつこいこの男。

「…無理で‼」

手を捕まれた。仕事中に、口説くなよ‼バカ男!

声に出ず、心のなかで叫ぶ。


「…すみません、これ、お願いします」
「…榊…と、相原」

…顔はよく見えていなかったが、相手はどうやら、企画部の人だったらしい。


助かった。

ナンパ男は、そそくさと退散した。

「…すみません、ありがとうございました」
「…メガネ無いと、別人みたいだな、桜子」

そう言ったのは、きよちゃん。

「…悪い虫がつく前に、メガネを早く買わないとな」

そう言ったのは、春人。

「…榊さんも、俺にとっては悪い虫ですけどね」

そう言ったのは、きよちゃん。


…だから、今、仕事中なんですよ。二人とも。

私は笑顔が引き吊った。



< 59 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop