ESCAPE
函館
カーテンの隙間から漏れる白光にまぶたは自然とパチクリした。ふと、横を見るとメタボは疲労困憊といった感じで、眠りこけている。アタシは、カバンから手鏡を取り出し、自分の顔を眺めてみた。くすんだ皮膚とうっすら残るファンデーションではあったが、白光でそれはいい感じに飛ばされ、ツルリとむけたゆで卵みたいだった。

今、夜行バスで朝を向かえたのが信じられない。

OLを止めたアタシは、休暇らしい休暇をとることも無く、ただ明け方まで光る歌舞伎町のネオンにその身をうずめていた。オンナ版、ドラキュラ。あんまり生きた心地のしていなかったアタシだったが、いまは窓の隙間から漏れる冷たい風がひんやりして気持ちいい。ドラキュラも少しはまともな人間になれたようだ。カバンに入れた小さなバスケットから、昨晩作っておいたおにぎりを取り出し、頬張る。料理なんか全然したことのないアタシだったけど、なんとなく、遠足気分みたいにサランラップでおにぎりをくるくる丸め、10個もこさえてしまったのだ。寝ぼけ眼で、ゆっくりとカラダを起こしたメタボに、おにぎりを差し出すと彼は、一口、口につけただけで、また眠りにつき始めた。その姿が、なんだか食べながら寝てしまう赤ん坊のようでアタシはおもわず笑った。

やがてバスは青森駅付近のバスターミナルに到着。なんてことはない。ごく普通の駅だ。スーツを着たサラリーマンや、高校生達がひしめいている。

「で、これからどうするの?」
「とりあえず、時間潰して青函トンネル抜けて札幌向かうのさ」
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