俺様副社長のとろ甘な業務命令
ちょっとぉ……嘘でしょ?
自分の名刺は渡したものの、相手の連絡先を伺い損ねてしまった。
これじゃ対処のしようがない。
あんなダイレクトにスーツを汚してしまったのに、何たる失態。
血の気が引く思いで立ち尽くしていると、背後から「あの…….」と控え目に声を掛けられた。
「あっ、ご、ごめんなさい」
すっかり彼女たちと話し途中だったことが飛んでいた私は、動揺を残したまま不自然に振り返る。
三人は揃って神妙な顔をして私の顔を見つめていた。
無理もない。
目の前であんなアクシデントを目の当たりにしたら、こんな顔になってしまうのが普通だ。
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「あー、うん、ごめんね。あ、長々と足止めしちゃって、あの、話聞かせてもらったお礼のサンプルがあるんだ」
試しにメイクしてあげるはずだったけど、そそくさと持ってきていたサンプルを紙袋から取り出す。
「今話してたものもあるので、良かったら使ってみてください」
適当に残りから数個ずつサンプルを手渡すと、三人はまたさっきまでの賑やかさで喜びを口々にした。
「ねーねーお姉さん、今いた人、超イケメンでしたね?」
サンプルを仕舞いながら一人の子がそんなことを口走る。
「へっ?」
いや、私は全くそれどころでは……。
「ね、ね! ちょっと見惚れちゃったし。メッチャできる大人の男って感じしたし!」
「やばかったよねー! ほら、あの人に似てなかった?」
「あっ、うちも思った、あの人!」
と、最近人気のイケメン若手俳優の名前を出して、似てただ何だと盛り上がりだす三人。
その話題に入る気には全くなれず、お礼を口にして荷物を抱える。
話し込む三人にペコリと頭を下げ、そそくさとその場をあとにした。