俺様副社長のとろ甘な業務命令
「……?」
「あ、ほら、ストレス発散に飲み過ぎちゃったし、もう散々だよね、はははは」
顔を隠すようにして丼ぶりを持ち上げ、スープを啜る。
丼ぶりの向こうから「その結果、二日酔いってわけか」と呆れたような声が聞こえてきて、内心ホッとした。
「何かごめんね、愚痴に付き合わせちゃったみたいになって」
「いや、それは別にいいよ。佑月もストレスフルみたいだし、愚痴くらい聞くよ」
「ありがとう。あ、明日も早いんでしょ? そろそろ帰ろっか」
「ああ、そうだな。送ってくよ」
独り暮らしをしている部屋は、駅から徒歩十分しないほどの場所にある。
近いから大丈夫と言ったけど、颯ちゃんは今日もまたわざわざ家まで送ると言ってくれた。
いつも今日みたいに一緒にご飯を食べたりした帰りは、毎回決まってマンションの前まで送り届けてくれる。
「わざわざありがとう。逆方向なのに、いつもごめんね」
「別にいいよ。ついでみたいなもんだし」
「あっ、そうだ! お茶でも飲んでいってよ。この間さ、会社の先輩が海外旅行行ったお土産って美味しい紅茶くれたんだ」
「いや、今日は帰るよ。佑月も疲れてるだろうし、早く寝た方がいいだろ」
「今日はって、颯ちゃんいっつも寄っていかないじゃん。まだ一回もうち来たことないし」
「ああ、ごめんな。また今度、次は寄らせてもらうから」
私と違って、颯ちゃんの仕事はきっともっと忙しい。
もしかしたら、帰ってまだやらなくてはいけない仕事があるのかもしれない。
そう思うと、無理に誘うのも悪い気がして食い下がる気持ちには毎回なれない。
「わかったよ。じゃあ、ありがとうね」
「おう、じゃ、またな」
帰っていくスーツの後ろ姿を見送りながら、今日一日の疲れが肩にずしっとくるのを感じていた。