俺様副社長のとろ甘な業務命令


「あれがそうなんだ。俺らと同じ歳くらいじゃないの?」

「かもねー、何歳か知らないけど」


憂さ晴らしをするように、お楽しみの肉厚チャーシューにかぶりつく。

口いっぱいに頬張る私を見て、颯ちゃんがプッと笑った。


「まぁ、でもいいじゃん。男前の副社長と一緒に仕事できて」

「はぁー? 全然よくないから。確かにみんな騒いでるけどさ、こっちはそれどころじゃないんだから。同僚たちには爽やかな笑顔振りまいてるけどさ、私には何かツーンて感じだからね。ちょっと二重人格ぽいし。しかも、弱味まで握られて、やってらんないし」

「弱味?」

「あー、実はさ……一昨日、外回り行くって言ってたじゃん? その先で、たまたまあの副社長のスーツを商品で汚しちゃって。そしたら、その翌日にうちの課にきて、副社長ってこと知ってさ……」

「何だその偶然。すごいな」

「うん……本当は、開発部に配属予定だったらしいんだけどね。それが、急にうちになったらしくって」

「急に? 何でまた」

「さぁ? 本人の希望らしいけど」

「本人の希望……」


箸で掴んだラーメンを持ち上げて、颯ちゃんは何か考えるように私の言葉をおうむ返しする。


「それに、昨日は昨日で歓迎会でさぁ」


つい会話の流れで昨日の過ちを話してしまいそうになり、ハッとして口を噤む。

歓迎会で飲み過ぎて記憶がなくなった先の話をしたら、颯ちゃんだってさすがに引くはず。

いや、気が付いたら副社長の部屋で朝でした、なんて言ったら、怒られること間違いない。

言えない、絶対言えない。


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