俺様副社長のとろ甘な業務命令


「で、佑月、誕生日の予定は?」

「え、あー、うん。なかったんだけど……少し前にできたみたい」

「え? できたって」

「あ、予定って言っても浮かれた予定じゃないんだけどね、休日出勤しなきゃいけなくなってさ、実はもう会社向かってるんだ」

「休日出勤って、こんな早い時間から? 普段より全然早いだろ」

「確かに。寝てたら電話で副社長に叩き起こされた感じなんだけどね」

「そっか……」

「まぁ、今仕事忙しい時だから、仕方ないのもあるんだけどさ」

「でも、こんな時間から行くならそんな遅くはならないんだろ?」

「うーん、わからないけど、多分ね。私だって嫌だよ、誕生日にさ」

「じゃあ、終わったら連絡して」

「え?」

「仕事終わったら、予定ないんだよな?」

「あ、うん。それは、まぁ……」

「じゃあ、決まり。待ってるから」

「うん、わかった」


最後に「頑張れよ」と言って、颯ちゃんは通話を終わらせる。

スマホをポケットにしまいながら、思わず笑みがこぼれた。


歳を重ねるごとに、子どもの頃のように誕生日におめでとうと言ってもらえることは確実に減っている。

そんな誕生日を気に掛けてもらえたことが単純に嬉しい。


仕事、何時に解放されるかな……?


見えてきた駅に向かって歩みを進めながら、確認した腕時計の針はちょうど七時を指していた。


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