私の彼氏は超肉食系
私は当然、彼の言葉を無視する。

この程度の罵声は認天堂医大付属病院の控え室に居たヤクザたちに比べれば屁でも無い。

それに私にはこの演技しかできないのだ。

既に頭の中にイメージが出来上がっているものを覆すことなど容易じゃない。

     ☆

撮影が進まなくなって3日、先にキレたのは監督のほうだった。

「ダメだと言っているだろう。この耳は飾り物か!」

そう言って私の耳を引っ張る。

痛い。

僅かに耳が切れたようだ。

余りの痛みに倒れこんだ私に向かって、監督は蹴りを入れ始める。

「お前みたいな新人女優なんか。代わりなんか幾らでもいるんだ。辞めてしまえ!」

これまで多少手を上げられることはあっても、私が倒れこめば暴力の手を止めていた監督が切れて本気で暴力を振るい始めたのである。

私は身体を丸め、痛みに耐えた。
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