桜ノ蕾
長い廊下をひたすら走った。
途中で何人かすれ違ったけど、皆ビックリした顔で私をみていた。
そして、やっぱりその人たちが着ているのも……
「いやっっっ!!!」
顔はもう涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
着物もはだけて襟が捲れそうになっている。
それをぎゅっと手で押さえた。
曲がり角をそのままの勢いで曲がろうとしたとき、向こう側から人影が現れた。
「きゃっ」
「おっと」
ぶつかった衝撃で後ろに倒れそうになったが、相手の人が手をつかんでくれた。
その手は大きく、氷のように冷たい。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
顔を上げて相手を見る。
その瞬間、私はハッと息を呑んだ。
目の前にいたのはやっぱり着物を着た男の人。
少し長めの黒髪。
怖いくらい整った顔立ち。
私よりも頭1つ高い背丈。
その姿は『カッコいい』というよりも『綺麗』のほうがしっくりくる。
そして何よりも私を引き付けるのはその瞳……
どこか悲しみを帯びたそれは、私の胸の奥を熱くさせる。
――目が、離せない。