桜ノ蕾
一言言ってやろうと口を開く。
が、柔らかく微笑んだ彼の笑顔で止められた。
「まだ花も咲かぬライ、蕾だな」
『ライ』
私は目を大きく見開いた。
この人今……
「ねぇ、もう一度」
「ん?」
「今の言葉もう一回言って!」
「蕾だと言ったのだ」
「その前!」
必死な私に彼は少し眉を潜めたが、また目を細めて言った。
「ライ」
時が止まった気がした。
心拍数が一気に上がる。
指先が微かに震え出す。
『ライ』
あのときの不思議な声と重なる。
この人が私をここに連れてきたんだ……
「一体どうしたというのだ」
その言葉でハッと現実に戻る。
彼を見るとジーと私のことを見ていた。
「ねぇ、貴方は何て名前なの」
「……八郎、大内八郎だ」
大内。
その名字の人を私は一人しか知らない。
でも名前が違う。
だとしても、この声はあのときのもの。
じゃあこの人は……