桜ノ蕾



私をライなんて名前で呼ぶのはこの人しかいないのに。


「貴方以外私をライなんて呼ぶ人は元の時代にはいなかった。貴方だけなのに……」


引き下がらない私に彼は困ったように眉を寄せた。


「そうは言っても覚えがないのだ。それに『元の時代』とは何なんだ?」


その言葉に困惑した。
未来から来た、なんて言っても信じてくれるわけない。

黙ったまま俯く。


すると彼は強く言った。



「お主は何者なんだ?」


疑うような声。
私はビクリと肩を震わせた。





どうしよう、どうしよう、どうしよう。





恐る恐る彼の方を見る。






あ……



私を見つめた彼は真剣な顔をしていた。


この人なら信じてくれるかもしれない……



何故か彼の顔を見てそう思った。
ただの私の希望論かもしれない。
でも……



「私はこの時代の人間じゃない。ここよりずっと未来から来たの」



ぎゅっと目をつぶる。




お願い、信じて……




暫くして彼は呟いた。


「未来から来た?」

「そう、ここよりも何百年も未来から」


彼は少し考え込んだ後私を真っ直ぐ見て言った。






「信じられぬ」


涙が溢れた。



やっぱり信じてくれなかった。
そりゃそうだ。
私だっていきなりこんなこと言われたって信じないもの。

やるせない思いでいっぱいになる。


「信じられないかもしれないけど、本当のこと」


真っ直ぐと彼を見つめて言った。



「では、ライがいたのはどのような世界だったのだ?」

「貴方たちみたいな着物は普段着てなかった。私が住んでいたのは平成二十六年の東京。ここに連れてこられたときは修学旅行で山口にいたの」

「へいせい? 聞いたことのない言葉だ。東京も山口も知らぬ地名だな」


やっぱり駄目だったかな……


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