桜ノ蕾


「ん? てゆうか何で蕾?」


そういえばさっきから小夜ちゃんが私の事を蕾と呼んでいる気がする。
私の事を蕾なんて呼ぶのはあいつだけだと思ってたんだけど。


「殿が仰っていたので」


原因はあいつらしい。
人の名前勝手に変えないでよ!!


「別に桜でも構わないよ?」

「そ、そんな滅相もない!!」

「わわっ、小夜ちゃん水水!!」


小夜ちゃんが頭と一緒に手もブンブンと振ったので水しぶきがかかった。

そんなに拒否しなくてもいいのにな。


「す、すみません……」

「いいよいいよ。で、どうして駄目なの?」

「それが諱いみなだからです」



いみな
あいつも確かそんなこと言ってた気がする。



「ねぇ、いみなって何なの?」

「へ? あ、そういえば蕾様は記憶を無くされているんでしたね」

「そ、そうだね……」


私は(勝手に)記憶が無い、ということになっているらしい。
気軽に知らないことを聞けるようになって便利なんだけど、小夜ちゃんに泣きながら慰められたときは物凄く申し訳なくなった。


「諱というのは真名まなともいって本名のことです」

「本名?」

「はい。諱は口にすることがはばかられると言われているので普段は字あざなで呼び合うんです。諱を知っているのは家族か主君だけです」

「じゃあそのあざなはあだ名ってこと?」

「いえ、あだ名と字は違うものなんです」


ヤバイ、訳が分からなくなってきた。





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