桜ノ蕾
民部君から聞いた場所に向かう。
『御屋形様はよく裏の林にある桜の下におられるそうなんです。今日ももしかしたら』
桜であろう木々はすっかり緑の葉で覆われていた。
流石にこの時期にここにはいないのかな。
そう思いつつ進んでいくと、1本だけ桃色に染まっている木があった。
「まだ桜が咲いてる……」
満開とまではいかないけどまだ少し花が残っていた。
近くに行くと、誰かが寝転んでいる。
見つけた……
彼は寝ているわけでもなく、ただ目を閉じているだけみたいだ。
「こんな所で何してるの?」
問いかけると、ゆっくりと目を開けて私を見た。
「あぁ、ライか」
そう言い、ふんわりと笑って起き上がった。
その姿を見て思わず顔を反らす。
こんな優しい顔もするんだ……
今まで見てきた笑顔は笑ってるけど何だか悲しそうに見えた。
でも今のは目が離せなくなりそうなそんな笑顔……
って何考えてんだ私!!
「どうしたのだ?」
「別に……」
謝りに来たのに恥ずかしくて顔がまともに見れない。
俯いた私に殿はクスリと笑っていきなり腕を掴んだ。
「へ? うわっ!!」
そのまま思いっきり引っ張られ、私は前のめりに倒れた。しかも顔面ダイブで。
結構な勢いだったのでへこむんじゃないかってほど鼻を強打した。
あまりの痛さにうっすら涙がうかんだ。
元凶の殿はというと、隣でケラケラと笑っている。
何するんだこいつは!
さっきまで和やかな雰囲気だったなのに台無しじゃない!!
「ちょっと何するのよ! てかいつまで笑ってるの!」
「ハハハ。すまんすまん」
ほんと信じられない。
女の子を普通引っ張る?
しかも顔を地面に向けて!!