桜ノ蕾
「で、どうしたのだ? ただここに来ただけではあるまい」
「そうよ! 全然捕まらないから民部君に教えて貰ったの!!」
民部が、と彼は呟いた。
その顔が少し不満そうだったのは私の気のせいだろう。
「謝りに来たの!」
「謝る? 何を」
あーもう!
こんな風に言うつもりじゃなかったのに!!
「この前貴方のこと諱で呼んじゃったでしょ? 小夜ちゃんから諱のこと聞いて謝りたかったのよ!」
叫ぶようにそう言うと、彼は目を丸くして驚いた。
「謝りに?」
「そうよ……」
私は改めて姿勢を整えて頭を下げる。
「ごめんなさい。私知らなかったから……」
殿は黙ったまま私を見ていたけど、しばらくしてポンっと私の頭に手を置いた。
「別によいのだ。私も悪かったなあんな態度をとってしまって」
顔を上げると彼は優しく微笑んでいた。
よかった。怒ってなくて。
ほっとして、私も笑顔になる。
「ううんいいの。お互い様ってことで」
お互い目を合わせてクスリと笑った。