桜ノ蕾

林はすっかり青々としていた。
心なしか空気が澄んでいるような気がする。


奥へ進んで行くと、見覚えのある木が見えてきた。
そこには人影も見える。

近づいてみると殿が寝転んでいた。


「また寝てるの?」


覗き込んで声をかけると、彼は顔の上に被せていた本をずらして片目でチラリと私を見た。


「また来たのか?」

「来ちゃダメなの?」


彼はクスリと笑って起き上がった。
乱れた髪を無造作に直す姿に思わず見とれてしまう。


「ほ、本読んでたの?」


恥ずかしくなって顔をそらしながら問いかける。
彼の周りには本や巻物が錯乱していた。


「読んでみるか?」


差し出された本を受け取ってめくってみる。


うわ、ぜんっぜん分かんない……


書いてあったのは何かの暗号のようなニョロニョロした文字。
所々「こうかな?」という漢字はあるけどほとんど全く分からない。


私が眉を歪めて本とにらめっこしていると、隣からクスクスと笑い声した。


「読めぬのか?」


からかったような笑顔にでムッとして唇を尖らせた。


「仕方ないじゃない。私の世界ではこんな文字使わなかったし」

「ではライの世界ではどのような文字を使っていたんだ?」


そう言いながら彼は木の棒を差し出してきた。

書けってことか。

私はそれを受け取って地面に『村上桜』と書いた。


「私の名前よ」
「ほお」


殿は興味深そうに書いた文字を見る。
その目は少年のようなキラキラとした目。


そんなに興味あるんだ。


思わず笑いが込み上げた。
子供っぽいけど何故か可愛いと思ってしまう。

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