桜ノ蕾

分からない人



「少し宜しいか?」


玄関の所で掃き掃除をしていたときいきなり後ろから声をかけられた。

驚いて箒が手から落ちそうになったのを間一髪のところで掴んだ。


「これは失礼。驚かせてしまったようですな」


振り返ると一人の男が立っていた。


「貴方、誰?」


30歳位だろうか。
少し髭を生やしていて大人の男の人という感じ。
ダンディーなおじ様という感じで殿とは対照的なイメージだ。


男は私のことを値踏みするように見ている。
何だか嫌な感じがして一歩下がる。


「誰?って聞いてるでしょ」


もう一度聞いてみたが男は私の質問に答えようとしない。


何なの?!
いきなり声かけてきて質問に答えずに人のことジロジロ見るなんて!


まだ黙っている男に私は我慢出来なくなる。


「ちょっと!」

「お主見ぬ顔だな」


一言文句を言ってやろうとしたら男がいきなり口を開いた。


「は?」


予期せぬ男の言葉に私は頭が真っ白になった。


「もう一度聞く。見ぬ顔だな」


何故か逆に私が質問されている。


ちょっと、私の質問はどうなったのよ?
てゆうか見ぬ顔って……


「私も貴方とは初めて会いますからね」



知らなくて当然だ。



でも男にとっては欲しかった答えではなかったらしく、眉をひそめた。



いや、そんな顔されても……

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