小さな村の大きな話
「ただいまーっ!!」
「ほら、あんまりはしゃがない」
「えへへっ、ごめんなさい。
もう6時だね…すぐ夕飯の支度しちゃうね」
「適当にデリバリーでいいよ、疲れてるでしょ??」
「今日一日寝てたから少しくらい動かないと夜眠れなくなっちゃうよ!!」
「分かった。部屋でやり残した仕事やるから何かあったらすぐ呼んでね!!」
「はーい」
…大和くんが最近変だ。
なんとなくそわそわしてるし、私に変な気を使ってくる事も多い。
家の鍵をかけ忘れたり、普段はあんまり見ないテレビをぼーっと見てることも増えた。
この間なんて夜になって私が寝ている間に私のノート見てたし……
あれから迂闊に落書きされたノート置いておけないなって思ったよ。
…………あれ、もしかして、私のせい……??
私、余計な心配かけちゃってるんじゃ…
「いい匂い……
何作ってるの??」
「や、大和くん!?!?」
「ぅわぁ、どうしたの、そんな驚いて」
「い、いや、なんでもないよ!!
今作ってるのは筑前煮!!
……って、大和くん!!まだスーツなの??ほら、台所来るなら着替えてから来て!!」
「ぷっ、ははっ」
「な、なんで笑うの??」
「いや、なんか、奥さんみたいだなって」
「へ??」
大和君はニコニコしながら台所を後にした。
奥さんっ!!
奥さんって!!!
きっと私はこの時ゆでダコみたいになっていたに違いない。
「はわわっ、は、恥ずかしっ!!!」
そんなつぶやきは一人の台所へと消えていった。
「手伝うよ、何すればいい??」
「………何なら出来る??」
「えっと………野菜の皮むきとか?」
じーっ。
とりあえず疑いの目で大和君を見つめる。
「教えてくれたら嬉しいかなー…、なんて」
「右手に包丁持って、刃を斜めにして…そう、親指はここ」
「…こう??」
「そうそう、左でじゃがいもを包み込むようにして…あ、刃の前に指置かない!!」
「ご、ごめん」
「右手で皮を引っ張るようにして剥くの。左手でじゃがいもを押すわけじゃないんだよ」
「へぇ…」
なんか、二人で台所に立つって不思議な気持ち…
少し照れくさいけど嬉しいな。
「……皮を剥いてるんだよね…??」
「はい」
「実が無くなりそうなのですが」
「そ、そんなこと…ナイヨ??」
「大和君用にピーラー買おうか…」
「…うん、そうする」
「「あはははははっ」」
二人して顔を見合わせて笑ったその時だった。
ピーンポーン
「誰だろう??僕が出るよ」
「いや、私行ってくるよ、大和君は皮剥いてて!!」
「わかった」
インターフォンに向かって話しかける。
「はい」
『回覧板です』
あれ、どっかで聞いたことある声……??
「すぐ行きます」
ガチャ
「あ、ども」
「あーっ!!!ひ、檜山さん!?!?」
「りんちゃん!?!?
大きな声出してどうしたの??」
「…あ!!」
「ひぃっ!!」
檜山さんが小さく悲鳴を上げたことを私は聞き逃さなかった…。