あの日の記憶
支え




8月15日


「お、おっはよー!!」


私はわざとらしく挨拶をしながら教室に入る


「あやちゃん!おはよう!」


「おー、あや!おはよ!昨日何してたの?」


私は我ながらクラスの中心のグループに入っていて友達も多かったせいか、昨日の事をしつこく聞かれた


「えっ?昨日?よ、用事だよぉ〜」


やばい。ひ汗


「誰か死んだん?」


ズキン、ズキン。胸の鼓動が速くなる


「ち、違うよ〜…誰か死んでたら学校来てないよ(笑)」


必死に誤魔化しているうちに予鈴が鳴る。


皆が席につき、朝の会が始まった。


お父さん。今何してるのかな?などと思いながら、4時間目になった。



あの時。



4時間目も算数。

私って算数に呪われてるのかな?


だって、また先生に

「用事なのでまた校長室で待っていて下さい。」

と言われた。

とても嫌な予感を感じながらも弟を迎えに行く。


弟も私と同じ顔をしていた。


しばらくすると、ばあば(お父さんのお母さん)


が迎えに来てくれた。


昨日と同じでタクシーに乗った。


タクシーの中でばぁばが

「お父さん。もうあかんかもやって。」


といつもと変わらず笑っていた。


私にはニコニコとした表情を無理矢理作っているように見えたけど。


しばらくすると病院に着いた。


「6階…」


私はエレベーターで6階を目指す。


やっぱり、1階から6階までが、やけに長いように感じる。


6階につくと、 昨日よりも深刻そうな顔をした親戚たちが揃っていた。


来てすぐに看護師さんに呼ばれる。


思いっ切り走って行きたかったけど病院は走っては行けないので、早歩きで看護師に付いていく。


昨日と同じ待合室の前にお母さんはいた。


ハンカチを握りしめて泣いているお母さんが。


こんなお母さん初めて見たよ…。


看護師さんはそんなお母さんも呼んで、私とお母さんと弟を集中治療室に入れてくれた。


そこには昨日より苦しそうなお父さんがいて


私は「やっぱり現実だよね…」


などと思いながら手を握る。


「冷た…」


手が冷たい。


それも凍っているかのような冷たさだ。


いつもは熱いほどあったかいのに…。


私と弟は黙り込んでしまった。


カーテンの中に響くのは


「かっちゃぁん…!
ごめんなぁ。苦しかったよなぁ。もう楽になれるからな。」



と、お父さんの名前を何度も呼ぶお母さんの声と


「ピッ、ピッ」


と言う音だけだった。


「なにこれ…。何かもうお父さんが死んじゃうみたいじゃん…!」


と思うと、どこかで聞いた言葉を思い出した。


それは


―言いたいことを言わないと必ず後悔する時が来る―


という言葉。


私は今だ…と思った。


でも、思った頃には口に出ていた


「なぁお父さん。」


お母さんと弟が私を見る


「お父さんっていつもそうだよね。私が誕生日の前に限って病気するよね。胃がんの時もそうだった。」


お母さんが泣き出す


「そりゃ私だってお父さんがもっと元気でお金もちでちゃんと働いてたら一緒に遊びたかったし、もっと会話もしてたよ?でもね。お父さん」


私は大きく息を吸う。


「大好きだよっ!」


私はお父さんの事を嫌いとか言ってたけどなんだかんだ言って好きだっなぁ…。


私が言い終わったあとはしばらくの沈黙が続いた。


すると突然―


「血圧低下!薬を注入します。」


と看護師が言った。


「やめてください!」


お母さんが叫ぶ


「薬を入れて苦しむよりも楽に死んで欲しいです」


多分こんな事を言っていた。


あまり覚えてないけど。


その後は、ずーっと手を握ってた。


お父さんの苦しそうな顔を見ながら。


―気づけば隣に医者がいた。


医者は


「今、勝三さんは心肺共に呼吸が停止しました。」


と言った。


6年生の馬鹿な私でもそれがどう言う意味かちゃんと分かった。


…お父さんは今死んだんだ…


「かっちゃぁん…」


「おとうさぁぁん…!」


「………」


お母さんと弟は泣き崩れる。


私は何故か泣けず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


私は訳が訳が分からなくなって1度整理した。


お父さんは今どうなった?


お母さんと弟はなにをしている?


そうだ、お父さんは今―


「…大丈夫ですか?」


ハッと気がついたら看護師に声をかけられていた。


「あ、えっと…だ、大丈夫です。」


私、ボーッとしてたんだな。


すると、看護師は悲しそうな笑顔で、私の耳元にささやく


「お母さんと弟くんの事、支えてあげてね」


とだけささやくと、私達3人に


「今から、勝三さんのお体を綺麗にいたしますので1度集中治療室からご退室なさって……………」


その後は気がつけば待合室にいた。


ずっと、ボーッとしていたのは私でも分かる。


待合室の中で皆が静まり返っている。


「気まずっっ」


と思いながら、スマホを持って待合室を出る。


廊下では葬儀の申し込みの電話をしているお母さんの声しか聞こえない


「ピロリン」


メールだ。


スマホを開けると、気が付いて無かっただけで5通メールが来ていた。


それは、私の親友の梨乃からのメールだった。


『お〜い。あやー。今日、どうして早退したのー?』


『あやー??』


いつでもマイペースな梨乃に、少し安心する。


でも、お父さんの事はちゃんと言わなければならない。


私も実感がまだ湧いてないけど…。


色々考えながらも、メールを打つ。


『ごめんね。梨乃。今ね、お父さんが亡くなって…やばいわ(涙)また後でメールしますーー。』


これでいいや。


メールを送信する。


梨乃はどんな反応するのかなぁ…?


可哀想に…とか??



「ピロリン」



梨乃から返信が返ってきたみたいだ。


もう1度、スマホを開く。

< 6 / 12 >

この作品をシェア

pagetop