どんな君でも愛してる
 そう言いながら髪の毛をタオルで拭くキョウの髪の色は、先程までの色と違い、真っ黒になっている。

「エレベーターで絡まれてたやつが、スパイね……。」

 そう言いながら不敵に笑うキョウの本当の名前は、  
 
 コンサルティング会社社長
 東雲 響介(しののめ きょうすけ)。「響介。」 

 響介は、自分の素性を隠して夜はこのbarでバーテンダーとして働いている。

 知っているのはこの安堂と、先程までお客様としてきていたアッパーフロア内に入る会社の社長達くらいだ。

 このラウンジは接待でよく使われるため、相手を見極たり、相手の本音を聞くため、髪を染め、いつもと違う自分を演出させ、ここでいつも動向を探っているのだ。

「この女を落として、洗いざらい吐いてもらう。」

「響介!」

「いい?安堂は何も知らないし、聞いてない?」

「……。」

「分かった?」

 そう言いながら、何か考えこんだ響介を心配するように安堂は見つめ、何か言いたそうに口を開いたが、すぐに口を閉じた。

 そんな様子を知らない響介は、カウンターで眠っている瑠璃を見ながら、数ヵ月前のことを思い出していた。
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