どんな君でも愛してる
「すなわち、総帥の所有している52階の所有権が誰かに渡るわけですが。」

 皆が、52階の所有権というセリフに反応するのが分かる。

 響介もすぐに反応したいが皆と同じように反応するのは嫌で、しれっと話を聞いたふりをする。

「私が認めた人に、所有権を譲るつもりだ。まず、一つ目は、この集めた8名から選びたい。二つ目は、私が認める花嫁を連れてくること。幸い皆に恋人がいないのは調査済みだ。三つ目は、会社に紛れているスパイを見つけ出し、私の前に連れてくること、以上だ。」

 ゆっくりではあるが意思のはっきりした口調で、響介たちに言い切った。

 ふいに口を開いたのは、響介と同じ会社に勤める30歳で課長に登り詰めたやつだった。

「副社長と私は土俵が同じと言うことですね?」

 その言葉に全員が凍り付く。

 確かに普通考えればアッパーフロアの中でも、上層部に位置するコンサルティング会社の、さらにその中でも地位が高い人物に、所有権があると誰もが思っていたからだ。

 だが、それを口にしようとする人物は居なかったのに、この男はみんなが思っていることをすんなり言ってしまったのだ。

 響介は気に入らないのか、チッと舌打ちをし、窓の外を眺めた。
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