どんな君でも愛してる
 読み終り響介の顔を覗き込むと"これだけ分かれば十分じゃない?"と話す。

「だが、中学から25歳までの外国での記録が一切ないなんておかしいだろ?」

 そう言われてみれば、そうかと納得して奏子は黙り込むが、響介の顔を見ながらあの日のことを思い出した。

*******

 奏子は旦那が出張の間、ホテルの一室に借り住まいする事が年に何回かある。

 今日も旦那を空港まで送り、いつものホテルにチェックアウトした所で、ロビーで見知った弟の顔があった。

ー話があるんだ。ー

 いつも憎たらしい、姉にはニコリともしない弟だが、顔がいつもより険しく何事かと感じて、慌てて部屋に向かった。

「どうしたのよ?」

 部屋に入りソファーに鞄をおいて座ると、入り口の扉に腕を組みながら寄りかかる響介の口がゆっくりあいた。

「鳳凰総帥が隠居する。52階の所有権を譲るらしい。」

「へぇー。それで?簡単には譲らないでしょう、総帥も。」

「男性8人で争う。後、総帥が納得する花嫁と、このビル内にいるスパイを見つけるのが条件だ。」

「………あんた、結婚する気あるの?」

「……ない。」

「スパイなんているの?」

「分からない。でも、いるんだろうな……。」

「てか、8人って?」

 次々質問するが、響介は素直に答えてくれる。
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