どんな君でも愛してる
「でも、あの子は八木さんが総帥の秘書だとも知らないし、そのおじいさんってのが総帥とも知らない。だって、八木さんって秘書っぽいですよねって言うのよ。」

「じゃぁ何で詳しい素性が……報告書があがって来ないんだ?」

 困惑する響介。

 ずっと彼女がなんらかの形で、関わっていると決めつけ、彼女を疑ってきた。関係を持つことで、口を割らせてやると息巻いていたが、その気持ちも、初めて抱いたときからなくなっていたのも事実で、彼女じゃなければいいと思っていた。

 策に溺れたのは、自分だった。

「……あの子の名誉のために言うけど。あなたが、初めての相手だったみたいよ。」

「えっ?」

「高萩とは付き合ってない。大嫌いって話してたわ。襲われそうになって傷痕見られて……トラウマになったみたい。傷物って言われて……。」

「………。」

「あの喧嘩の日、私とあの子、話聞いてたのよ。」

 その言葉に、目を見開いて響介は奏子をみて、目の前が真っ暗になった。

 あの日、自分は何を言ったか改めて思いだし、愕然とした。

ー花嫁候補者何かじゃない。そもそも毛色が違うから味見してやっただけだ。誰が好き好んであんな傷がある女に手を出すかー

 憔悴しきってどこを見ているか定まらない視線。

 姉を通り越して、どこか遠くを見て、知らず知らずに指の爪をかむ姿が、どこか弱々しい。

ーガチャっー

 不意に開かれた扉に二人はゆっくり視線を向けると、扉の向こうには、総帥の秘書 八木の姿があった。
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